福岡高等裁判所 平成12年(行コ)5号 判決 2000年12月15日
控訴人
有限会社《甲1》
右代表者代表取締役
《甲2》
右訴訟代理人弁護士
桃原健二
被控訴人
長崎税務署長 《乙1》
右指定代理人
高橋孝一
同
金子健太郎
同
腹巻哲郎
同
渡邉博一
同
山崎眞信
同
松本秀一
同
樗木朋美
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が、平成九年四月二八日付けで控訴人の同七年七月一日から同八年六月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額一七九一万七〇一九円、納付すべき税額五九三万八二〇〇円を超える部分及び右更正に伴う過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五頁三行目「当裁判所」を「長崎地方裁判所」と、同一一行目「被告」を「控訴人」とそれぞれ改める。
二 原判決一四頁六行目「傭船料して」を「傭船料として」と改める。
三 控訴人が当審において補充した主張
1 本件傭船契約の締結及びこれに伴う傭船料の一括前払いは、経費を削減し利潤を追求するという企業活動として当然の行為であり、租税回避を目的とした行為ではない。浚渫業において、大手業者は経費削減の要請から年間契約の傭船契約を締結し、傭船料を一括前払いすることを頻繁に行っている。控訴人も平成七事業年度に入って業績が向上し、今後、継続的な受注の見込みが立つようになったので、平成八年六月一日、本件傭船契約を締結するに至った。そして、他の大手業者同様、本件傭船料を支出した日の属する平成七事業年度の損金として会計処理したが、これは公正妥当な会計処理基準に従ったものである。
2 費用収益対応の原則には、個別対応の原則と期間対応の原則が含まれており、原価の中でも固定費は変動費に比し収益との対応関係が稀薄であるから、費用収益対応の原則は緩やかに解釈されるべきである。本件傭船料は、原価を構成するものであるものの、傭船にかかる収益(受注)がなくても傭船料が発生するものであるから、収入に比例する変動費ではなく固定費である。このような点から、本件傭船料の支払いを平成七事業年度の損金として会計処理したことは、公正妥当な会計処理基準に従ったものといえる。
3 本件通達(一)の後段は、費用収益対応の原則の例外として一定の前払費用についてこれを損金の額に算入して会計処理することを許している。その適用に関する重要性の原則については、右通達には適用基準が明示されていないことから課税庁の恣意的な運用がなされる恐れがあり、重要性の強弱は個別企業ごとに相対的なものであるから、個別企業の判断が尊重されるべきである。また、控訴人は、本件更正処分がなされた平成九年四月二八日の時点で、平成七事業年度及び平成八事業年度(平成八年七月一日から同九年六月三〇日までの事業年度)にわたり継続した経理処理を行い、継続性の要件も充足している。よって、本件傭船料の支払いは、本件通達(一)の後段が例外として認める前払費用に該当するから、これを平成七事業年度の損金の額に算入して会計処理することが許されるべきである。
4 控訴人の営む浚渫業は、技術的役務の提供を業とする事業であるから、本件通達(二)が適用されるべきである。仮に、右通達にいう技術的役務の提供が人的役務の提供に限定されるとしても、浚渫業は消費税法基本通達一三-二-七では人的役務の提供等を業とする第四種事業とされており、本件通達(二)を適用し、本件傭船料の支払いを平成七事業年度の損金の額に算入して会計処理することが許されるべきである。
第三争点に対する判断
一 当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」及び「第四 結論」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一六頁九行目「利用して」の次に「水底の土砂を掘削して除去するなどの浚渫作業を行い」を加える。
2 原判決一八頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「この点について、控訴人は、浚渫業を営む大手業者の間では傭船料を一括前払いすることが頻繁に行われ、傭船料全額を支出した日の属する事業年度の損金として会計処理されており、また、傭船料は原価を構成するものとしても収益がなくても発生する固定費というべきものであり、これについては費用収益対応の原則は緩やかに解釈されるべきであるから、本件傭船料全額を平成七事業年度の損金の額に算入すべきである旨主張する。
しかし、控訴人主張の浚渫業界における会計処理が直ちに公正処理基準に従ったものとはいえないのみならず、むしろ公正処理基準の中核をなすものと認められる企業会計原則(乙一)によれば、売上原価等は収益と個別に対応するものとされており、本件傭船料が売上原価等を構成する以上、費用と収益を個別に対応させるべきである。そして、本件傭船料については、一定期間の収益に対応する原価としてその額を明確に算出できるものであるところ、控訴人は収益を平成八年六月一日から同月三〇日までの一か月分しか計上していないのであるから、傭船料についてもそれに対応する一か月分を損金の額に算入するのは当然というべきである。
よって、控訴人の主張は採用できない。」
3 同頁七行目「をなすものであり、」を「として、一定の短期前払費用については支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することを認めたものであり、」と改める。
4 原判決一九頁四行目「企業会計上」の次に「要請される規制を内包していることは」を、同五行目「いえない」の次に「し、課税庁が前記のような諸般の事情を総合考慮して判断すべきことであり、個別企業の判断に委ねるべき事柄でもない」を加える。
5 原判決二〇頁一三行目「加えて」から同二一頁四行目「したがって」までを「以上によれば、他の要件である継続性について更に検討するまでもなく」と改める。
6 原判決二一頁一〇行目「また、」から同一一行目「満たさない。」までを「これに対し、控訴人は、右通達にいう技術的役務の提供が人的役務の提供に限定されるとしても、浚渫業は消費税法基本通達一三-二-七では人的役務の提供等を業とする第四種事業とされているから、本件通達(二)を適用すべきであると主張する。
しかしながら、浚渫業は消費税法上では簡易課税制度の適用の関係において第四種事業者にあたると解されているのであって、そのように解釈されているからといって、制度を異にする法人税の適用場面で、直ちに浚渫業が人的役務の提供に該当するとはいえない。また、本件通達(二)は、設計、作業の指導監督、技術的指導等で専門的な知識を必要とする人的役務の提供にかかる報酬を対象としたものであり、浚渫業は前記のとおり浚渫船によって水底の土砂を掘削して除去する作業であり、作業にある程度の技術や経験が必要であるとしても、その事業の本体は浚渫作業であるから、右人的役務の提供に該当しないことは明らかである。」と改める。
二 結論
以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(平成一二年九月二七日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 山田和則 裁判官 山本善彦)